アオイと暮らすようになって1年と少し。
もう大きな体なのに、アオイは雨の日激しく甘えてくる。
去年4月、たった380gの小さな命が、雨の中必死で母猫を呼ぶ。はぐれたのか、まさか人の手によって捨てられたのか。
とにかくその小さな体は、実家の玄関の前で鳴いていた。いや泣いていた。
久しぶりに実家に帰って、ぐうすか寝ていると、朝の8時くらい。母親が「猫がいる、でかい声で鳴いて近所迷惑だし、雨だし、とりあえずうちに入れた」という。慌てて玄関に向かうと、まだ毛がほわほわの産毛で、黒白のオカメの震えてる仔猫だった。抱き上げて下から見上げると、口元が黒くて、ブスだなあと思った。あれ?どこかで見た顔だった。よく実家に遊びに来る雄猫と瓜二つの模様。あいつの子供かもしれないと思った。
実家の先住猫の「りり」、「デビ」の2匹はようやく和解したばかりなのに、3匹目は無理、と母親。元気なデビに関しては、何の問題もない、むしろいい遊び相手になると思ったが、確かにりりは気難しいお猫だから、これ以上ストレスをかけたくないと思った。猫だれか飼えないかな・・・私の家はペット禁止だ、とほほ・・
外は大雨だから、もし母猫が近くに居て、はぐれたとしても、このコの匂いは消えてしまってるなと思った。
あまりにずっと鳴くので玄関で仔猫を抱き上げて遠くまで声が聞こえるようにした。もしかしてこのコを探してる母猫に聞こえるように。でもそれも虚しく、ざあざあという激しい雨の音にかき消されてしまった。
夕方になってもミルクも飲まないし食べないし、オシッコもしないで鳴き続けた。さすがに心配になった猫博士の母がティッシュを濡らして尿道あたりを刺激するとぴゅうとオシッコがでた。やっぱり今日まで自分でオシッコの仕方がわからず、母猫に舐めてもらってたんだろう。ミルクはその後ちょっとだけ飲んでうとうとしては母猫を思い出して鳴く、の繰り返しで夜が来た。
その晩、仔猫とベッドで眠った。寒かったのかな、私の喉の上にマフラーの様に横になって寝ていた。私のほうは押しつぶさない様に全身に力が入って、全然熟睡できなかった。仔猫のほうが先に目覚めて、遊びたそうな顔で私の顔にイタズラしてちょこちょこ小さな爪で引っかいてきた。なんか幸せだった。カーテンをあけると、昨日とは打って変わって雲ひとつない青空。小さなほわほわの体にあおい空、;暗示;このコの未来は明るい・・・寝る前まで早く飼い主を探さなきゃと思っていたはずなのに、とっさに「あおい」という名前で呼んでみる。なあ、一緒に暮らさないか?
駄目元で大家さんに猫を飼っては駄目かと聞いてみた。アッサリではないが、なんとOKがでた。夢をみてるようだった。ピンクの花がパアと頭の中を飛び回った。大家さんが天使にみえた。いや天使だ。自分の家でも糖尿病の猫を飼っているらしい。ほんとにありがとうございます。大家さん。
それからそれから時が過ぎて、アオイは成長した。雄だからなのか?すごく甘えん坊だけど、私がヒステリックになったときや落ち込んでいるときは、そっとそばに来てくれるアオイ。
時々赤ちゃんに戻ったような顔でゴロゴロ言いながらひざの上に乗って、自分の長いしっぽを口に運んで、しっぽがびちゃびちゃになるまで舐めるアオイ。母ちゃんのおっぱいを思い出してんのかな。
今日は、ご飯がほしいわけでもないのに、すごく鳴いてた。いつも以上に甘えてしっぽをちゅぱちゅぱ。胸がぎゅうと締めつけられた。わたしもアオイと初めて会った日を思い出してしまったの。嬉しいけれど悲しい記念日を。
アオイ、忘れられないことは忘れなくていいことなんだね。忘れちゃいけないこともあるんだね。